「人事は大事とわかっている。でも、今は売上や資金繰りの方が先だ」——そう感じている経営者の方は、少なくないと思います。かつては、それでも何とかなっていました。しかし今、その判断が会社の存続を左右する時代になっています。
人手不足倒産が過去最多を記録し、採用難と離職が同時進行する中小企業が急増しています。本記事では、なぜ人事課題が「重要だが緊急ではない」から「重要かつ最緊急」へと変わったのか、6つの構造変化をもとに読み解きます。「まだ大丈夫」と思っている方にこそ、ぜひ読んでいただきたい内容です。
「人事課題は緊急度が低い」は、もう過去の話
|退職が止まらない・採用が追いつかない…現場で起きている現実
ある中小企業の人事課長は、こんな状況を抱えていました。1ヵ月に1名のペースで退職者が出る一方、求人を出しても応募数は激減。入社してもすぐに辞めてしまう人が続き、その本当の理由すら把握できていない——。
これは、決して特殊なケースではありません。退職と採用難が売上の低減に直結しているという状況が、多くの中小企業で静かに進行しています。「以前は採用できていた」「今いる社員は長く働いてくれている」という事実が、かえって問題の深刻さを見えにくくしてしまっているのです。
|「以前はできていたから」が通用しなくなった3つの理由
なぜ、以前と同じやり方が通用しなくなったのでしょうか。大きく3つの理由があります。
① 労働市場そのものが変わった: 求職者は今や、給与・休日・働き方・会社の将来性を複合的に比較して応募先を選びます。「とりあえず求人を出す」だけでは応募が来ない時代です。
② 転職のハードルが下がった: 転職が一般的なキャリアパスとして定着し、「嫌なら辞める」という選択肢が以前より身近になりました。不満を抱えた社員は、今は黙って去っていきます。
③ 同業他社が動き始めた: 同じエリア・同じ規模の競合が、給与アップ・休日増加・テレワーク導入といった施策を打ち始めています。何もしない会社は、相対的に「選ばれない会社」になっていきます。
|中小企業白書が示すデータ
「中小企業白書2024(https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2024/PDF/chusho.html)」では、企業が重要と考える経営課題の1位が「人材の確保」、2位が「採用」という結果が出ています。さらに注目すべきは、職場環境の整備に積極的な企業ほど従業員数が「増加」していると回答する割合が高いという事実です。
つまり、同じ中小企業の中でも、人的課題に迅速に対応した企業に人が集まり、対応しない企業から人が去るという二極化が、すでに始まっているのです。
人事課題の優先度を押し上げた6つの構造変化
|①労働生産人口の減少と②インフレによる賃上げ圧力
まず押さえておきたいのが、日本社会全体の構造変化です。
国立社会保障・人口問題研究所の予測によると、2040年には現在の労働力人口が約20%減少するとされています。これは、「努力すれば採用できる」という前提が崩れることを意味します。限られた人材をいかに確保し、育て、定着させるかが、企業の生産性と競争力を直接左右します。
加えて、近年のインフレ進行により、従業員の生活コストは着実に上昇しています。賃金が据え置かれたままの職場は、生活防衛のための転職先探しを促してしまうリスクがあります。
|③働き方志向の多様化と④長時間労働是正の法整備
コロナ禍でテレワークが急速に普及したことで、「通勤前提・固定時間勤務」が絶対ではないという認識が広まりました。フレックスタイム制・副業解禁・育児との両立支援——こうした柔軟な働き方への対応が、採用競争力に直結する時代になっています。
さらに、2019年の労働基準法改正により、時間外労働の上限規制が法的に義務化されました。対応できていない企業は、採用の入口でも「選ばれない」リスクを抱えています。
|⑤転職市場の流動化と⑥人手不足倒産が過去最多
転職は今や当たり前のキャリアパスとなり、キャリアパスが不明確・評価基準が不透明な会社は、優秀な人材ほど早く去っていくという現実があります。帝国データバンクの調査では2023年に人手不足倒産が過去最多を更新。人的課題は、もはや企業の存続に関わる最重要リスクとなっています。
ご支援事例:人事課題を経営課題として捉えた会社の変化
|支援前の状態:後回しにし続けた結果
ご支援したある中小企業では、「給与は悪くない、特に不満は聞いていない」という経営者の認識とは裏腹に、毎年一定数の退職が続いていました。等級基準も評価基準も属人的で、誰がどんな理由で昇給・昇格するのかが不透明。「頑張っても報われない」という空気が蔓延し、優秀な社員から先に辞めていくという悪循環に陥っていました。
|支援後の変化:優先順位を変えたことで起きたこと
等級フレームと評価基準の整備から着手し、「どの等級に何が求められるか」を明文化。評価と処遇の連動性を高めることで、社員が自分のキャリアパスをイメージできる環境を整えました。結果として在職社員の納得感が高まり、採用面接でも「評価制度がしっかりしている」という点が応募者に刺さるようになりました。人事制度の整備は、コストではなく投資。その効果は、定着率と採用力という形で数字に表れてきます。
まとめ:今すぐできる「最初の一歩」
人事課題は、もはや「重要だが緊急ではない課題」ではありません。労働力人口の減少、転職市場の流動化、人手不足倒産の急増——これらの構造変化が重なり合う今、人事課題への対応の遅れは、直接的な事業リスクに直結します。
「何から手をつければいいかわからない」という方は、まず自社の現状を書き出すことから始めてみてください。退職者数・退職理由・採用状況・処遇水準——これらを整理するだけで、優先すべき課題が見えてきます。
株式会社ジェントルマネジメントでは、中小企業の実態に即した人事制度の構築・導入・運用支援を行っています。「うちの会社に合った形で進めたい」という方は、ぜひお気軽にご相談ください。