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人事制度の全体像を5回で解説|第4回:賃金制度の基本。「何に給与を払うのか」を明確にし、等級・評価と連動した処遇設計が社員の納得感とモチベーションを生む理由

「頑張っても給与が上がらない」「あの人とどうして給与が変わらないんだろう」——こうした声が社員から上がっている会社では、賃金制度の設計に問題が潜んでいることがほとんどです。

人事制度の整備に取り組む経営者や人事担当者の方と話していると、評価制度の重要性はある程度理解されていても、賃金制度については「なんとなく運用してきた」「長年変えていない」という声をよく耳にします。しかし、いかに等級制度・評価制度を丁寧に設計しても、それが賃金に正しく反映されなければ、社員は「頑張っても意味がない」と感じてしまいます。

本記事では、人事制度の全体像シリーズ第4回として、賃金制度の基本構造と設計のポイント、そして等級・評価と連動させることで初めて「貢献が報われる組織」が実現する理由について、わかりやすく解説します。


そもそも賃金制度とは何か?人事制度における位置づけを整理する

賃金制度とは、「社員の貢献度や役割に応じて、どのように給与・賞与・手当を決定し、支払うか」を定めた仕組みです。一言で表すなら、人事制度の「最終出口」とも言えます。

人事制度は、大きく「等級制度」「評価制度」「賃金制度」の3つで構成されています。第2回でお伝えした等級制度は「社員にどのレベルの役割・能力を求めるか」を定めるものであり、第3回でお伝えした評価制度は「その等級で求められていることが実際に発揮できているかを測る」仕組みです。そして賃金制度は、評価の結果を処遇(給与・賞与・手当)に反映させるための仕組みです。

この3つが正しく連動して初めて、「何ができていれば、どのように報われるのか」という人事制度の根幹が機能します。逆に言えば、賃金制度が曖昧なままでは、等級も評価も「絵に描いた餅」になってしまうのです。

賃金制度を設計・運用する上での大前提として、まず押さえておくべきことがあります。それは、「何に対してお金を払うのか」という問いに、会社として明確に答えることです。この問いへの答えが曖昧なまま制度を運用していると、社員は処遇の根拠が理解できず、納得感を持てません。会社への信頼も徐々に失われていきます。

「何ができていれば、どのように報われるのか」を明確にする経営ツール——それが賃金制度の本質です。


「何に給与を払うのか」を整理する。賃金の構造を知る

賃金制度の設計を始めるにあたって、まず取り組むべきことは「現在の給与内訳を整理・見える化すること」です。多くの会社では、長年の慣習で給与の中身が複雑化しており、「何に対して何を払っているのか」が不明瞭になっているケースが少なくありません。

賃金の構造は、大きく以下のように整理することができます。

■ 基本給

基本給は賃金の根幹をなす部分であり、主に次の種類があります。

年齢給・年功給:年齢や勤続年数に応じて決まる給与。年功序列型の組織に多く見られます。 – 職能給:社員が保有する能力・スキルの発揮度に応じて決まる給与。等級制度と連動させることで機能しやすくなります。 – 職務・役割給:担っている職務や役割の大きさに応じて決まる給与。ジョブ型人事制度との相性が高いです。 – 業績給・成果給:成果や業績に連動して変動する給与。目標管理制度と組み合わせて運用されることが多いです。

■ 手当

手当には「固定的なもの」と「流動的なもの」の2種類があります。役職手当・職務手当・資格手当などの固定的な手当のほか、家族手当・住宅手当・通勤手当といった生活補助的な手当もあります。

■ 賞与

賞与には、毎年一定額が支給される固定賞与と、業績や評価結果に連動して変動する変動賞与があります。また、特別な成果や永年勤続に対して支払われる特別賞与・報奨なども含まれます。

これらの構造を整理し、「自社はどの部分に何のために支払っているのか」を明確にすることが、賃金制度設計の出発点です。整理してみると、「なんとなく支払い続けている手当」や「本来の目的が曖昧になっている手当」が見つかることもよくあります。まずは現状の棚卸しから始めることが重要です。


等級・評価と連動させる。昇給・昇格・賞与の仕組みをつくる

賃金の構造が整理できたら、次は評価結果を処遇にどう反映させるかのルールを設計します。ここでまず理解しておきたいのが、「昇給」「昇格」「昇進」のそれぞれの違いです。

昇給:給与が上がること – 昇格:等級が上がること – 昇進:職位(役職)が上がること

これらは似ているようで異なる概念であり、それぞれに対応する処遇ルールが必要です。たとえば、等級が上がれば基本給の範囲が変わる(昇格)、評価が高ければ昇給額が大きくなる(昇給)、といった形で連動させていくことが基本的な設計の考え方です。

昇給の方式には主に以下の種類があります。

号俸給表方式とは、等級ごとに給与テーブル(号俸表)を設定し、評価結果に応じて号俸が上がっていく仕組みです。等級間の給与の関係性によって、接続型・開差型・重複型・シングルレート型に分かれます。接続型は同一等級内での昇給が可能ですが昇格時のインセンティブが小さく、開差型は昇格時に大きく昇給するため昇格実感を得やすい反面、同一等級内での昇給幅が狭くなります。重複型は賃金決定の柔軟性がある一方で等級間の逆転現象が起こるリスクがあり、シングルレート型は管理がしやすい代わりに成果による差がつきにくいという特徴があります。

範囲昇給方式とは、等級ごとに賃金の下限・上限を設け、評価結果に応じた昇給額を運用していく仕組みです。昇給原資に応じた調整がしやすく、標準昇給額や評価による昇給格差のつけ方を比較的自由に設計できるメリットがあります。

洗替方式とは、これまでの支給額を考慮せず、毎回の評価結果をもとに都度支給額を決定する仕組みです。直近の評価をそのまま処遇に反映できる一方、評価が下がった場合は給与も下がる可能性があるため、社員への丁寧な説明と運用ルールの整備が不可欠です。

どの方式が自社に合っているかは、組織の規模・文化・評価制度の成熟度によって異なります。重要なのは、「評価が高い人はより多く報われる」という処遇の再現性を担保できる仕組みになっているかどうかです。同じ成果を出したなら同じように報われる、という当たり前のことが制度として保証されている状態をつくることが、社員の納得感とモチベーションを支える土台になります。


賃金制度が機能しないとどうなるか。よくある失敗パターン

賃金制度の設計が曖昧なまま運用を続けると、組織にはさまざまな問題が生じます。よくある失敗パターンを4つ紹介します。

① 評価と賃金が連動していない「頑張り損」の組織

評価制度はあるのに、評価結果が賃金にどう反映されるかのルールが明確でないケースは、中小企業では珍しくありません。この状態では、高い評価を得た社員も低い評価の社員も、処遇がほとんど変わらないという事態が起きます。「頑張っても給与が変わらない」という声が出始めたら、評価と賃金の連動を見直す必要があるサインです。

② 年功序列が残り、貢献と処遇が乖離していく問題

長年にわたって年功序列の給与体系を引きずっている組織では、若手や中堅の優秀な社員が「自分の貢献が正しく評価されていない」と感じやすくなります。在籍年数が長いだけで自分より給与が高いベテラン社員を目の当たりにすることで、意欲が削がれていくのです。貢献度と処遇をきちんと連動させる賃金制度への移行が、組織の活性化につながります。

③「成果を出す人ほど辞めていく」逆転現象の正体

これは賃金制度の問題が最も深刻な形で現れた状態です。成果を出しても処遇が変わらないとなれば、優秀な社員ほど「この会社ではキャリアと収入が連動しない」と判断し、より良い処遇を求めて転職していきます。残るのは現状維持で満足している層、という逆転現象が起きていくのです。人事制度の再構築に取り組んだ後、こうした逆転現象が改善されたという声は現場からも多く聞かれます。

④ 場当たり的な処遇の決め方で、イレギュラーな調整手当が当たり前になる問題

賃金制度の設計が曖昧なまま組織が成長していくと、「この社員だけ特別に〇万円を手当として上乗せする」といった場当たり的な処遇対応が積み重なっていきます。採用時の交渉で特別手当を設定したり、引き留めのために個別調整したりするケースが典型例です。

こうしたイレギュラーな調整手当は一度設定すると減額が難しく、やがて「調整手当が当たり前の状態」が定着してしまいます。結果として給与体系が複雑化・不透明化し、「なぜあの人の給与はあんなに高いのか」という不公平感が社内に広がっていきます。また、経営者や人事担当者も個々の給与の根拠を説明できない状態に陥り、ますます制度への信頼が損なわれていくという悪循環に陥ります。

場当たり的な処遇対応は、その時々の問題を一時的に解決しているように見えて、組織全体の賃金秩序を静かに崩していくのです。


賃金制度設計のポイントと導入ステップ

では、賃金制度を正しく設計・整備するためには、何から手をつければよいのでしょうか。ポイントと導入ステップを整理します。

ステップ① 現在の給与内訳を「見える化」する

まず取り組むべきは、現在支払っている給与の内訳を全て洗い出すことです。基本給・各種手当・賞与のそれぞれについて、「何を目的として支払っているのか」を明確にします。この作業を通じて、目的が曖昧になっている手当や、整理・統廃合すべき手当が見えてきます。

ステップ② 等級・評価との連動ルールを設計する

次に、等級制度・評価制度と賃金がどう連動するかのルールを設計します。「何等級の社員の基本給の範囲はいくらか」「評価がSであれば昇給額はいくらか」といった具体的なルールを明文化します。社員が「どうすれば給与が上がるか」を理解できる状態にすることが目標です。

ステップ③ 昇給・賞与・昇格の仕組みを整備する

昇給・賞与・昇格それぞれについて、評価結果との連動ルールを整備します。たとえば「評価Aの場合は月次昇給額が〇円」「賞与の基準月数は評価Sで〇ヶ月」といった形で、処遇の根拠を数値として明示できる状態にします。

ステップ④ 社員への説明・周知を丁寧に行う

賃金制度は、社員にとって最も関心が高く、最もセンシティブな制度です。制度を設計するだけでなく、「なぜこのような仕組みにしたのか」「どうすれば処遇が上がるのか」を丁寧に説明する機会を設けることが、制度への信頼と納得感を生みます。

ステップ⑤ 運用しながら改善していく姿勢を持つ

賃金制度は、導入時点で完璧な形に仕上げることが難しい制度の一つです。大切なのは「運用しながら時間をかけて作り上げていく」という姿勢を持つことです。実際に運用を始めると、想定していなかった課題や不整合が見えてくることがほとんどです。定期的に制度を見直し、チューニングしていく体制を整えることが、長く機能する賃金制度づくりにつながります。

ただし、賃金制度は評価制度などと比べて、一度導入すると頻繁に変更することが難しいパーツでもあります(手当については比較的変更しやすい部分もあります)。そのため、導入時・改定時には特に慎重な進め方が求められます。

具体的には、最初からすぐに評価結果と賃金を直接連動させるのではなく、しばらくの間は従来の処遇決定方法と新しい賃金制度を並行して運用し、「もし新制度を適用したらどうなるか」をシミュレーションすることが重要です。このシミュレーションを通じて、想定外の給与逆転や大幅な増減が起きないかを確認し、大きな混乱が生じないことを見極めた上で、評価結果と賃金を正式にリンクさせていく——この段階的なアプローチが、現場に信頼される賃金制度を定着させる上での大切なポイントです。


まとめ

賃金制度は、等級制度・評価制度と三位一体で設計されて初めて機能するものです。「何に給与を払うのか」という問いに正面から向き合い、貢献と処遇をきちんと連動させることが、社員の納得感とモチベーションを高め、「頑張れば報われる」組織文化を生み出します。

場当たり的な処遇対応や、長年変えていない年功序列の給与体系を放置し続けることは、組織の成長を静かに阻害します。賃金制度の整備は、優秀な人材の定着と組織力の向上に直結する、経営上の重要課題です。

次回(第5回)は、人事制度の全体像シリーズ最終回として「教育制度」について解説します。等級制度・評価制度・賃金制度と連動させることで初めて機能する教育制度の本質と、社員の成長を組織的に支える仕組みづくりについてお伝えします。

賃金制度の設計・見直しについてご相談がある方は、お気軽にジェントルマネジメントまでお問い合わせください。各社の実態に合わせた伴走型のサポートで、貢献が正しく報われる組織づくりをご支援します。

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